季節の変わり目は感染リスクが高まる

 感染症は病原体が体内に侵入し、定着、増殖することで成立する。病原体である病原性微生物はウイルス、細菌、カビなど様々な種類に分類できる。感染リスクを論じるのに、これらの病原性微生物の毒性、感染源、感染経路などは欠かせない論点であるが、ここでは生体の免疫力の制御に深く関わっている自律神経の機能に触れ、気候の変動による感染リスクについて考察する。

自律神経とは

 自律神経は、「交感神経系」(以下、交感神経)と「副交感神経系」(以下、副交感神経)の二種類から構成される。自律神経は内臓や血管の機能をコントロールする神経で、交感神経が体を支配すると体はアクティブな状態になり、副交感神経が支配すると体はリラックスした状態になる。

 活動的な日中は交感神経が支配し、夜、リラックスするときには副交感神経が支配するというように、相反する働きを持った二つの自律神経が、交互に体を支配することで身体機能が保たれている。こうした自律神経の働きは意識とは無関係で、血液循環、呼吸、消化吸収、排泄、免疫、代謝、内分泌などの身体機能をコントロールして恒常性を維持している。

 では、どういうときに人は感染症に感染しやすいのだろうか。結論をいうと、交感神経活動レベルが異常に高く、副交感神経活動レベルがきわめて低いときである。この状態が持続すると体のあちこちに不調が現れやすい。逆の場合、つまり、副交感神経活動レベルが高くて、交感神経活動レベルが低すぎる場合は、うつ病の傾向が強まるとされる。

免疫の中心「白血球」

 免疫の中心を担っているのは、血液中の「白血球」である。交感神経が優位になると顆粒球が増え、副交感神経が優位になるとリンパ球が増えるという特性が明らかになっている。
 顆粒球は分解酵素と活性酸素によって取り込んだ異物を処理する。顆粒球の数と体内に侵入してくる細菌のバランスがいいときは何も問題はないが、あまり細菌がないのに、交感神経が過剰に優位になることで顆粒球が増えすぎてしまうと、健康維持に必要な常在菌まで殺してしまい、逆に免疫力を下げることになってしまう。
 一方、副交感神経が優位になると、リンパ球が増えることにより基本的には抗原に対する反応が早くなり、ウイルスに感染しにくくなるので、やはり免疫力は向上する。

気候の変化と感染リスクの関連性

 秋から冬にかけて気温が下がっていくと、寒さを感じた体は体温を上げるために血流を増やそうとして、交感神経を優位にして血圧を上昇させる。このことによりリンパ球が顆粒球に比べ劣勢になり、秋から冬へと季節が移り変わる頃に風邪やインフルエンザにかかる人が増えるのである。

 また気温だけでなく、気圧の変化も自律神経に影響する。たとえば、雨や台風などで気圧が大きく乱れると気持ちが落ち込むなど不定愁訴を訴える人が増加するなど、気圧の急激な変化は自律神経のバランスを崩すと考えられている。
 梅雨時は全体的に気圧が低い日が続くため、副交感神経が優位な状態が続く。逆にその晴れ間には一転して副交感神経の活動性は低下し交感神経が優位になる。この急激な変化が、リンパ球の急激な減少を招き免疫力を低下させ、感染症にかかりやすい状態になるものと考えられている。