ストレスとタイプAパーソナリティーについて
ここではストレスとは何か、ストレス刺激に対して引き起こされるストレス反応、さらにストレス反応に継発されるストレス関連疾患について触れ、次にストレスを受ける個人の特性としてA型パーソナリティと代表的な虚血性心疾患である心筋梗塞との関連性について解説する。
ストレスとは何か
ストレス概念の基礎を築いたのはセリエである。セリエは動物実験において、さまざまな有害刺激により①副腎肥大、②胸腺、リンパ節の萎縮、③胃、十二指腸潰瘍、という三大徴候が出現することを提唱し汎適応症候群とした。人をとりまく日常生活においてストレス刺激となり得るものは、生物的、物理的、化学的、心理社会的なものが存在し、それを受ける側としての個人のパーソナリティ、行動特性、環境、身体の状態などの要素が複雑に関与してストレス関連疾患を発症する。
セリエの提唱したストレス学説は、ストレス刺激(様々な有害刺激)によりストレス反応が引き起こされる一連のプロセスを説明したものである。すなわち、生体にストレス反応が加わると、警告反応期の初期には血圧低下、低血糖などが起こり(ショック相)、ついで交感神経-副腎髄質系の活性化により分泌されるカテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン)により交感神経系が活性化され、血圧、血糖値は上昇に転じる(反ショック相)。次に視床下部-下垂体前葉-副腎皮質系が活性化され抵抗力が上昇し、高い抵抗力が維持される(抵抗期)。この期間、副腎皮質ホルモンである糖質コルチコイドは血糖値の上昇、胃酸の分泌、血管透過性の抑制による抗炎症作用を及ぼす。さらに、ストレスが持続すると生体は消耗し全身状態の悪化をもたらす(疲弊期)。
以上のようなストレス刺激に対する生体反応をまとめると、①血圧の上昇、心拍数の増加、消化管の運動低下などの自律神経系の反応、②血中副腎皮質ホルモン濃度の増加による内分泌系の反応、③自律神経系や内分泌系の変化に相関した免疫系の反応、である。これらのストレス反応が循環器疾患、呼吸器疾患、消化器疾患、精神疾患などのさまざまなストレス関連疾患の発症につながっていくと考えられている。
次に、個人の特性としてのA型パーソナリティと心筋梗塞との関連について考察する。
タイプAパーソナリティーと虚血性心疾患
虚血性心疾患は、心筋の虚血によって生じる臨床症候群である。心筋梗塞は虚血性心疾患のひとつで、冠動脈の閉塞により心筋壊死が引き起こされた不可逆的な病態であり、その基礎病態は動脈硬化である。 発症の背景には不適切な生活習慣、すなわち、不適切な食行動、飲酒、喫煙、運動不足などが伴うことが多く、基礎疾患としての高血圧症、糖尿病、高脂血症、肥満などが危険因子とされる。
心筋梗塞の発症においてタイプA行動パターンとの関連性が指摘されている。タイプA行動パターンとは具体的には、競争的、野心的、精力的で常に限られた時間の中で多くの仕事を遂行しようとするような行動傾向である。このような性格特性に情動ストレスが加わることにより心筋梗塞の発作が誘発されやすいとされている。
その生理的プロセスは、交感神経系の活性化によるカテコールアミンの分泌、またそれに伴う心拍数の増加、心筋収縮力の増加などのβ作用、および末梢血管の収縮に見られるα作用であり、急激な心臓血管系の負荷の増大により心筋梗塞の発作が誘発される。
さらに、先行研究によると、欧米においては動脈硬化の危険因子としてタイプA行動パターンの構成要素としての「敵意」、「怒り」との関連性が指摘されているが、日本においてはむしろ慢性的な高負荷な仕事に伴う「不眠」、「過労」があげられており、この点は国民性、文化的背景の相違を反映しているものなのであろうか。
予防的方略として、タイプA行動パターンの変容といった行動科学的アプローチが心筋梗塞の再発予防に有効であると報告されており、タイプA行動パターン特有の慢性的な時間切迫感、敵意性、競争性を伴った生活様式を、ゆとり、好意、楽しみといった新たな生活様式に再構成することは心筋梗塞の予防に有効である可能性が示唆されている。