心身医学的アプローチにより、適応的な行動の形成、維持に導く

 日常の臨床では、医学的アプローチによる疾患の病理を対象とした診断と治療、すなわち医学的治療モデルに基づいた治療がその中心を占めます。ところが、一部の疾患においては検査的に異常が見出せず、身体的、器質的原因が特定されないにもかかわらず、疼痛や異常感を訴える場合があります。こうした場合、医学的治療モデルで説明可能な器質的原因を有する身体的疾患とは区別して対応する必要があります。
 このような疾患群は一般に心身症、とりわけ歯科領域に発症した病態に関して歯科心身症、口腔心身症などと位置付けられ、環境因、ストレッサー、パーソナリティなどの心理社会的な要因の関与を想定した心身医学的アプローチが必要とされます。

 さらに、歯科治療の対象である口腔は様々な理化学的な刺激により侵襲されやすい感受性の高い臓器である上に、外科的処置あるいは物理的変形を伴う治療の特性上ある程度の疼痛体験が不可避であるという止むを得ない事情があります。したがって、一般に多くの方が情動反応として、不安、恐怖、緊張、疼痛を予期し治療に際して様々な回避反応を起こしやすくなります。このような状況は一般に歯科治療恐怖症などと呼ばれ心身医学的理解および心理的援助の対象となり得ます。